あなたが大切にしたいことは?価値観から見つけるエシカルフードの始め方
エシカルフード、あなたは何を大切にしたいですか?
エシカルフードという言葉を聞いて、興味を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。一方で、「なんだか難しそう」「何から始めたら良いのか分からない」と感じている方もいるかもしれません。
倫理的な食生活、つまりエシカルフードは、単に特定の食材を避けるといったことだけではなく、私たちが口にするものが「どこから来て、どのように作られ、誰の手を経て運ばれてくるのか」といった背景に目を向けることを含みます。それは、地球環境や関わる人々の暮らし、そして動物たちの福祉に配慮した選択を増やしていく試みです。
しかし、「エシカル」と一口に言っても、その内容は多岐にわたります。環境問題、動物福祉、生産者の権利、地域経済の活性化、食品ロスの削減など、様々な視点があります。これらの全てを完璧にこなすことは、誰にとっても難しいことです。
この記事では、「全てを網羅しなくてはいけない」というプレッシャーを感じるのではなく、「あなたが個人的に大切にしたいことは何か?」という問いを羅針盤にして、あなたらしいエシカルフードジャーニーを始めるためのヒントをご紹介します。
エシカルフードが含む多様な視点を知る
エシカルフードという言葉は、私たちが食を通じてより良い社会や環境づくりに貢献しようとする考え方を指します。具体的には、以下のような様々な側面を含んでいます。
- 環境への配慮: 農薬や化学肥料の使用を減らした栽培方法(オーガニックなど)、輸送による環境負荷が少ない地元の食材を選ぶこと(地産地消)、森林破壊につながらない持続可能な生産を行うことなど。
- 動物福祉: 鶏をケージに入れずに飼育する(平飼い)、狭い場所で過密に飼育しないなど、動物が本来持つ習性に従って健康的に過ごせるように配慮すること。
- 人道的な配慮: 食材の生産に関わる人々が、公正な賃金や安全な労働環境のもとで働けるようにすること(フェアトレードなど)。開発途上国だけでなく、国内の農業や漁業においても重要な視点です。
- 地域経済と文化の保護: 地元の農産物や伝統的な食材を積極的に選ぶことで、地域の生産者を応援し、食文化を守ること。
- 食品ロスの削減: まだ食べられる食品が捨てられてしまうことを減らす努力。計画的な買い物や調理、保存方法の工夫などが含まれます。
これら全てに関心を持つ必要はありません。あるいは、最初は一つの側面だけに関心を持つ方もいらっしゃるでしょう。大切なのは、自分が「これなら無理なく取り組めそうだ」「これは応援したい」と感じる点を見つけることです。
自分にとって「大切にしたいこと」を見つけるヒント
では、具体的にどのような視点からエシカルフードへの第一歩を踏み出せるでしょうか。いくつか「問い」を立ててみましょう。
- 動物が好きですか?
- もし動物の飼育環境が気になるなら、動物福祉に配慮して育てられた卵や肉、乳製品を選ぶことから始めてみることができます。表示を確認したり、信頼できるお店を探したりすることから始められます。
- 地球環境問題(気候変動など)が気になりますか?
- 環境負荷を減らしたいなら、農薬や化学肥料の使用を抑えたオーガニック食材を選んだり、輸送距離の短い地元の食材(地産地消)を選んだりすることが考えられます。また、食料生産に伴う温室効果ガス排出量が比較的少ないとされる植物性の食品を意識的に取り入れる(プラントベースなど)という選択肢もあります。
- 食料廃棄を減らしたいという思いがありますか?
- 家庭での食品ロス削減は、今日からすぐに始められるエシカルな行動です。買いすぎない、冷蔵庫を整理して把握する、食材を無駄なく使い切るレシピを試すなど、できることはたくさんあります。
- 買い物の際に「誰が作ったのだろう?」と考えることがありますか?
- 食材の生産に関わる人々を応援したいなら、フェアトレード認証の付いたコーヒーやチョコレート、バナナなどを選んでみましょう。あるいは、地元の農産物直売所で生産者の顔が見える野菜を買うのも良い方法です。
これらの問いはあくまでヒントです。あなたが普段の生活で「これってどうなんだろう?」と感じることや、メディアなどで見て心に留まったことから、大切にしたい価値観が見つかることもあります。
小さな一歩から始めてみる体験談
いきなり食生活全てを大きく変えるのは大変です。多くの方が、まずは小さな一歩から始めています。ここでは、架空の人物ではありますが、実際に「価値観」を入り口にエシカルフードを始めた方の例をご紹介します。
例えば、佐藤さん(20代)は、スーパーで野菜を買うときに「フードロス」のことが頭をよぎるようになったのがきっかけでした。形が不揃いなだけで捨てられてしまう野菜があると知り、「まずは身近なことから」と、家庭での食品ロスを減らす工夫から始めることにしました。
- ステップ1: まずは冷蔵庫の中を「見える化」することからスタート。週に一度、冷蔵庫の在庫をチェックする日を決めました。
- ステップ2: 買い物に行く前に、冷蔵庫にあるもので作れるメニューを考え、必要なものだけをリストアップするようになりました。
- ステップ3: 余ってしまいがちな野菜は、冷凍したり、まとめてスープにしたりと、使い切りレシピを調べるようになりました。
- ステップ4: 少し慣れてきたところで、近所にできた野菜の直売所に行ってみました。そこで規格外の野菜が安く売られていることを知り、積極的に購入するようになりました。
佐藤さんは、「いきなり全部を変えようと思ったら挫折したかもしれません。でも、自分が一番気になった『食品ロス』から始めて、できることを一つずつ増やしていったら、無理なく続けられています。スーパーでも直売所でも、食材の見方が変わって、買い物が楽しくなりました」と話しています。
このように、「自分が大切にしたいこと」を一つ選び、それに関わる小さな行動から始めてみることが、長続きさせる秘訣です。
続けるためのヒント:栄養や買い物、そして周囲の理解について
エシカルな選択肢を増やしていく上で、栄養バランスや買い物の方法、周囲の反応など、いくつかの疑問や不安が出てくるかもしれません。
栄養バランスについて
特定の食材を避ける・減らす選択をした場合に、栄養バランスが偏らないか心配になる方もいるでしょう。例えば、肉を減らしたいと思った場合、タンパク質や鉄分、ビタミンB12などが不足しないか気になるかもしれません。
しかし、植物性の食品にも豊富な栄養が含まれています。
- タンパク質: 豆類(豆腐、納豆、レンズ豆など)、ナッツ類、種実類、全粒穀物などから十分に摂取できます。様々な食材を組み合わせることで、必須アミノ酸をバランス良く摂ることができます。
- 鉄分: ほうれん草、小松菜、ひじき、レンズ豆などに多く含まれます。ビタミンCと一緒に摂ると吸収率が上がります。
- ビタミンB12: これは植物性の食品からは摂りにくいため、強化食品(一部の植物性ミルクやシリアルなど)を利用したり、必要に応じてサプリメントを検討したりすることも選択肢の一つです。
多様な種類の食材をバランス良く食べることが、栄養を偏りなく摂るための最も基本的な考え方です。特定の栄養素について不安がある場合は、専門家(医師や管理栄養士)に相談することも良いでしょう。
食材の選び方・買い方について
スーパーでエシカルな食材を見つけるには、ラベル表示が参考になります。「有機JASマーク」(オーガニック)、「フェアトレード認証ラベル」、「MSC認証」(持続可能な漁業で獲られた水産物)、「ASC認証」(環境や社会に配慮した養殖場で育てられた水産物)など、様々な認証マークがあります。これらを少しずつ知っていくことから始められます。
また、地元の農産物直売所やインターネットのオンラインストアなども、エシカルな食材を見つけやすい場所です。お店の人に尋ねてみるのも、背景を知る良い機会になります。
周囲の理解について
家族や友人との食事で、自分のエシカルな選択についてどう説明すれば良いか悩むこともあるかもしれません。大切なのは、自分の価値観を尊重しつつ、周囲に無理強いしないことです。
まずは、自分の食卓でできることから始め、自分が「なぜ」そうしているのかを聞かれたら、正直に、そして穏やかに話してみましょう。「環境のために」「動物が好きだから」「地元の農家さんを応援したくて」など、あなたの素直な気持ちを伝えることが、理解への第一歩となることが多いです。一緒にエシカルな選択肢を試してみるのも楽しいかもしれません。
あなたらしいエシカルフードジャーニーを楽しんで
エシカルフードの実践は、何かを我慢したり、厳格なルールを守ったりすることだけではありません。それは、あなたが大切にしたいこと、応援したいことを食を通じて表現する、ポジティブで創造的な旅です。
完璧を目指す必要はありません。まずは、あなたが一番ピンときた「価値観」から、小さく、無理なく始めてみましょう。週に一度だけ地産地消の野菜を買ってみる、フェアトレードのコーヒーを試してみる、冷蔵庫の在庫をチェックしてみる。どんな小さな一歩でも、それは確実に社会や環境、そしてあなた自身につながる良い変化です。
この旅を通じて、新しい発見があったり、食事がもっと豊かな時間になったりするかもしれません。あなたが大切にしたいことを羅針盤に、あなたらしいエシカルフードジャーニーをぜひ楽しんでください。応援しています。